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潰瘍性大腸炎の自己抗体の発見!

自己抗体

潰瘍性大腸炎の発症には免疫が関係していると長く考えられていましたが、なかなかその免疫が誤作動を起こす対象が分からずにいました。
しかし2021年3月に京都大学の研究チームが潰瘍性大腸炎患者の90%が有する自己抗体を見つけました

自己抗体とは何なのか?この発見により今後潰瘍性大腸炎がどうなるのか?
この大きな進歩を見ていきましょう。

潰瘍性大腸炎の病態解明の大きな一歩に間違いありません。

潰瘍性大腸炎の原因は今までは未知だった

大腸粘膜に多数の潰瘍を生じて、なおかつ多彩な臨床症状を呈する潰瘍性大腸炎という病気は、遠い昔よりその病因として感染症や酵素異常、はたまた食餌アレルギーなどが一説で唱えられて来ました。

近年になると、自己免疫疾患の一亜型として注目されるようになり、これまでも本症における数々の免疫学的異常シグナルが少しずつ次第に明らかにされてきました。

色々な医学的検証によって、潰瘍性大腸炎においては「血中自己抗体」たるものの存在が証明され、その患者の血液より分離されたリンパ球が自身の大腸粘膜に位置する上皮細胞を破壊してしまう作用を有することが検証されてきました。

詳細な大腸粘膜障害の機序として、helper/inducer T細胞の増加およびsuppressor/cytotoxic T細胞の減少に伴う局所的な抗体産生能の亢進や抗大腸抗体、あるいはリンパ球親和性抗体をはじめとする自己抗体の出現などに関する研究報告が挙げられます。

簡単に言うと、潰瘍性大腸炎は何らかの免疫応答に基づいて自らの蛋白物質に対する免疫機能が強く作動することにより産生された自己抗体が誤認識して自身の大腸を攻撃して破壊してしまうことで引き起こされる疾患だろうと考えられてきたのです。

ところがここで問題だったのは、多くの研究者が数々の実証研究を試みてきた経緯があったにも関わらず、果たしてどの蛋白源に対して自己抗体が産生されるのかは不明であった点でした。

潰瘍性大腸炎の自己抗体に関する最先端の発見とは?

前述したように、潰瘍性大腸炎という病気は、若年者でも発症し得る大腸に潰瘍形成する炎症性腸疾患であり、世界的にみてもその患者数は増加傾向を辿っています。

これまでも本疾患の>発症メカニズムには免疫系異常が関連していると考えられ、多くの医学的研究が行われてきた背景がありますが、根本的には病気の直接的原因の解明には未だたどり着いておらず、今なお国が定める指定難病の扱いになっています。

原因不明の難病から原因特定への道

そんな中で、京大病院のあるグループがこの病気に自己抗体が強く関連していると仮定して、これまで長きに渡って本疾患に該当する患者さんの血液中に含まれて存在する自己抗体たるものが攻撃の標的としている体内物質を探索することに成功しました。

その実験においては、潰瘍性大腸炎が一般的に自身の大腸粘膜における上皮細胞が障害されることが根本的に指摘されているために、その上皮細胞に主に発現するタンパク質に焦点を当てて研究を積み重ねてきたとのことでした。

潰瘍性大腸炎(インテグリンαVβ6)出典:京都大学HP

その結果、「インテグリンαVβ6」という蛋白物質に対する自己抗体の存在が潰瘍性大腸炎患者さんの中の約9割以上の方に認められることが判明したのです。

しかも驚愕的なことに、この新たに発見された自己抗体は、同じ炎症性腸疾患の仲間であるクローン病や他の腸炎疾患ではほぼ認められないことが分かり、つまりは潰瘍性大腸炎に特化した確定診断に有用であり一役を担うことが期待されているのです。

潰瘍性大腸炎の原因特定と言ってもいいのではないでしょうか

また、潰瘍性大腸炎患者さんの病気の重症度や疾患活動性に合わせてその抗体そのものの数値(抗体力価)が概ね比例して変動することがわかってきたため、これまでのように頻繁に体に侵襲を伴う下部内視鏡検査をせずにその病勢が評価できるメリットが考えられます。

内視鏡をしなくても重症度も数値化しやすくなる。

さらに本研究グループは、この新発見された自己抗体が上皮細胞の接着機能に関与するタンパク質との結合を抑制して阻害する作用を有する代物であることも証明しました。

結合阻害作用出典:京都大学HP

今後、この発見が潰瘍性大腸炎における新たな診断法や治療薬の開発の根本的な基礎になるものと信じられております。

さて今後、潰瘍性大腸炎どうなる?

目下のところ、この新たに発見された自己抗体を測定することで潰瘍性大腸炎の確定診断に貢献し、なおかつこの自己抗体が持つ生体内作用を追求することでさらなる病態の解明に直結する可能性が期待されています。

そして現在のところ、この自己抗体の力価を容易に測定することが出来る検査キットを企業と共に共同開発してきた結果、国内抗体診断薬トップメーカーである株式会社医学生物学研究所と京都大学が協力して測定診断キットが作製されました。

この「抗インテグリンαVβ6」と呼ばれる自己抗体の適切な測定そのものが潰瘍性大腸炎の正確な診断に繋がっていき、さらに実際の罹患患者さんにおいて消化管症状と照合するかたちで病状の把握に寄与しやすくなることでより良い診療に役立つと思われます。

将来的には、本検査キットが医療機関などで簡便に広く用いられて保険償還の適応が得られることを社会的目標として見据えられています。

検査キットと同時に病態解明へ

潰瘍性大腸炎の自己抗体発見出典:京都大学HP

具体的には、まずは研究用試薬として2021年中に全国の病院で本自己抗体が測定できるようになり、そこから2023年までに厚生労働省より薬事承認されることを経て、2025年には保険適用となり一般的にも普及される予定です。

更には当該研究グループで潰瘍性大腸炎の根治的治療を発見する取り組みとして、この抗インテグリンαVβ6自己抗体を産生する体内の細胞だけを同定して除去できる新規治療薬の開発がすでに開始されているとのことです。

潰瘍性大腸炎は、現時点でも完治させる医学的な確固たる治療法が存在しない難病です。

本疾患においては特に長い生涯にわたって症状に苦しめられる若年層の患者さんを中心に罹患数は増加の一途をたどっている現状を顧みても、今回紹介した最新の知見そのものが確定診断技術の確立や新たな治療法を発見するうえでの突破口になりえます。

少しでも早く本病気に対する効果的な治療薬が開発され、少しでも多く本疾患の患者皆様が抱いている苦痛感を取り除くことができるように、これからも潰瘍性大腸炎に関する研究がより活発に順調に進んでいくことを願ってやみません。

潰瘍性大腸炎が難病でなくなる日も遠くないのかもしれませんね。

指定難病「潰瘍性大腸炎」の自己抗体発見 -新たな診断や治療開発へ-(京都大学HP)