IBD患者さんの85%以上でいくつかの栄養成分が不足していることが知られています。
具体的には、鉄分や亜鉛、ビタミンB12、葉酸、ビタミンD、ビタミンK、セレンなどが欠乏しやすいことがよく報告されています。
IBDでは特にクローン病に多く見られ、寛解期より活動期の方が欠乏しやすくなります。
原因として食べる量が減ってしまったり、食べ物の吸収がうまくできなかったり、吸収する前に排出しまうことなどが考えられます。
鉄分
貧血はIBDで最も見られる症状で、鉄分が不足することにより生じます。
調査によると53~56%の患者さんで鉄分不足が認められています。
鉄の吸収は主に小腸の十二指腸で行われるため、その部位に炎症があったり、切除することで吸収が低下してしまいます。また腸管から出血の症状があるとより貧血になりやすくなりますので注意が必要です。
亜鉛
亜鉛は体に必須のミネラルの1つで、体の中でタンパク質を作るのに重要な役割を担っています。
不足することでタンパク質を作るのが盛んな細胞や臓器で障害がでてきてしまいます。
症状として味覚障害 (味が感じにくくなる)、貧血、皮膚炎、口内炎、脱毛などが起こります。
IBDではこの亜鉛が欠乏しやすくなることが知られています。
原因として亜鉛は主に小腸の十二指腸と空腸で吸収されます。IBDの患者さんにはその部位に炎症があったり、切除をしていたりすることで亜鉛の吸収が低下していると考えられています。
ビタミンB12
ビタミンB12は、胃と十二指腸で吸収される形に変換された後に小腸の一部である回腸で吸収されます。
回腸の炎症、特に回腸を切除することでB12の不足のリスクが上がります。
またビタミンB12は主に肉類や魚介類に入っているので食べる量が減ったり、野菜中心の生活で不足しやすい栄養素です。不足することで貧血 (悪性貧血) やしびれなどの神経症状がでます。
葉酸
葉酸は特にクローン病患者さんで不足がみられ、全体の80%になると報告されています。
葉酸不足は活動期やIBDの治療薬の1つであるサラゾスルファピリジンを服用しているとそのリスクが上がります。
葉酸も赤血球を作るのに使われますので貧血の予防に重要です。
また細胞が増える時に必要な栄養素です。
腸管や口内などの粘膜は入れ替わりが激しく特に葉酸を必要とする組織で、不足すると潰瘍や口内炎ができやすくなります。葉酸は主に豆類やほうれん草、アスパラガスなどの野菜に含まれます。
ビタミンD
ビタミンDは不足がいくつかの論文で報告されています。
最近の研究では、ビタミンDが不足していると再発率が高かったり、症状が悪化する可能性が高まることが報告されており注目されています。
ビタミンDは骨を作るのを助けたり、免疫を調整する機能があります。
特にステロイドを併用している患者さんはカルシウムの吸収が悪くなったりすることで骨量が減少してしまうことがあるので積極的にとっていただきたいビタミンです。
実際にIBD患者さんでは高い確率で骨量が不足していることが報告されています。ビタミンDは魚やキノコに多く含まれ、さらに日光に当たることで活性型になります。
必要な日光の量は、夏場ではあまり問題になりませんが、冬場の特に緯度が高いところに住んでいる人は昼間でも1時間強は必要になります。
ビタミンK
ビタミンKの不足はIBDでしばしばみられます。
ビタミンKは主に腸内細菌から供給され、小腸で吸収されます。
小腸に炎症や切除があると不足する原因になります。
不足することで出血傾向になりやすくなります。
また骨粗鬆症を予防する効果が知られています。上にも記していますが、骨密度が低下しやすいので不足には注意しましょう。ビタミンKは納豆やモロヘイヤ、ほうれん草などに豊富に含まれています。
セレン
セレンは微量必須元素といわれるミネラルです。
食事がある程度とれていれば不足する可能性は低いですが、食事のほとんどを処方されている栄養剤で長期間まかなっていると不足することがあります。
不足することで心臓や筋力の低下、爪が白くなるなどの症状がみられます。
不足しがちな栄養素のまとめ
IBD患者さんは、上記にあるように栄養の吸収に重要な腸の疾患のため栄養不足が起きやすいことがよく知られています。
特に活動期や小腸の十二指腸や回腸に炎症や切除があると必要な栄養素の不足が起きやすくなりますので医師や薬剤師と相談のもと食事だけでなくサプリメントで補うのもよいと思います。また気になる不足によるような症状があれば早めに相談しましょう。