新型コロナウィルスは2020年4月頃から世界的に猛威をふるっており、1年たった今でもその混乱は収まっておりません。
高齢者や幼児に加えて基礎疾患を持つ人はコロナ重篤化のリスクが高いとされ、このサイトを見られるクローン病や潰瘍性大腸炎の患者さんやご家族の方も不安な日々を送られていると思います。
一日も早くコロナ以前の安心できる日常に戻れるよう祈っております。
クローン病患者は新型コロナウイルスに罹りやすいか?
クローン病とは、主に小腸や大腸などの消化管領域の粘膜部位に慢性的な炎症を引き起こす自己免疫が関与した病気のことです。
また、ここで言うところの新型コロナウイルス感染症は、“SARS-CoV2”と呼ばれる新型のコロナウイルスによってもたらされる感染症のことです。
近年では、世界保健機関を中心に世界中のあらゆる公衆衛生や感染症における専門研究機関が調査研究を徐々に深めてきたことによって、ウイルスの感染経路やその治療法、あるいは感染後の自然経過や予後予測などが少しずつ明らかになって参りました。
特にクローン病の方の中で、治療として免疫抑制剤を使用されているために低免疫状態と考えられる際には普段と比べて細菌やウイルスによる侵入を許しやすくバリア機能が乏しい為に新型コロナウイルス感染症にも罹患しやすいと言えるでしょう。
クローン病患者が新型コロナウイルスに感染した場合
一般的に新型コロナウイルス感染症に罹患した場合に自覚する頻度が高い症状は、発熱や咳嗽症状、また体の倦怠感や息苦しさ(呼吸困難)などいわゆる通常の風邪のような兆候が挙げられます。
クローン病の主たる慢性症状に下痢や血便があることから、万が一クローン病の患者様が新型コロナウイルス感染症を発症したことを考えると、さらに下痢症状がひどくなったり発熱に伴って血便頻度が悪化するなどによって脱水症を引き起こして、さらには多臓器障害を招く最悪な事態になり兼ねませんので十分な注意が必要です。
新型コロナウイルス感染症に対する治療方法としては、いわゆる感冒のような軽微な症状のみを認める場合には対症療法(解熱鎮痛剤で熱を下げたり鎮咳剤を服用して咳嗽症状を抑える治療など)を行いますが、稀に薬剤性胃腸障害という副反応が現れるケースがありますので特にクローン病の方は腹部症状が悪化しないかを注意深く経過観察することが肝要です。
重症化して肺炎を合併するような場合は、低酸素状態に陥っていることが多く酸素投与が必要であったり、全身的な循環動態の管理に加えて抗ウイルス薬やクローン病の治療でも良く用いられるステロイド薬(炎症を抑える薬)などの集中治療が著明に奏効する場合が散見されます。
仮にこれらの集約的な治療を施行したにもかかわらず全身状態が改善せず、特に重篤な場合には体外式模型人工肺を使用しなければならない症例も時に存在します。
抗ウイルス薬に関する知見として現時点では、エボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビル(一般名)が新型コロナウイルス感染症の治療薬として世界的に認可されたことに伴って、本邦でも2020年5月より国内初治療薬として正式に承認される運びとなりました。
クローン病患者のコロナ感染時のリスク
今回の新型コロナウイルスは致死的な肺炎など重症の呼吸器感染症を発症するタイプと言われており、特にクローン病のような易感染状態の患者においては稀に急性上下気道炎から急速に重症肺炎に重篤化する可能性があるので特に注意が必要です。
新型コロナウイルスに感染すると、誰でも自然免疫システムを活性化してウイルスに対抗するのは当然ですが、クローン病など低免疫状態になるフェーズが存在する一部の患者さんにおいては免疫系統が過剰に反応して血栓症を生じさせて多臓器不全に陥ることも推測されます。
一方でクローン病の方が免疫抑制剤を使用している段階では、全く免疫応答できずに炎症が強く惹起されることによってサイトカイン・ストームと呼ばれる急激な生体内炎症カスケードの破綻を生み、さらには急性呼吸促拍症候群や全身性炎症反応症候群と言われる非常に重篤な状態を引き起こす可能性が考えられています。
免疫抑制剤を使用していてもコロナワクチンは打てる?
世界各国でワクチン開発のための研究が盛んに行われており、海外でも接種が進み、日本では緩徐ではありますが新型コロナウイルス感染症に対する予防法としてファイザー製のmRNAワクチンが普及されつつあります。
クローン病患者は健常人と比較して、栄養状態が悪かったり合併症があることによってただでさえ感染症のリスクが高いとされているうえに免疫抑制剤の治療を受けている場合には更にリスクが上がると考えられるので、必要に応じてかかりつけ医と協力してワクチン接種すべきかを検討するようにしましょう。
クローン病の症状が悪化していたり、その病勢によっては免疫抑制療法を実際に開始する前でもワクチン接種が難しいケースも想定されるため、クローン病の患者様も適宜主治医の先生と小まめによく相談される事をお勧めします。
今回の情報が少しでも参考になれば幸いです。