紹介

IBD患者はIBDではない人と比べて寿命が短い

IBD患者の寿命

「IBDの患者の寿命は以前よりも延びている」という研究結果が報告されたのはご存じでしょうか?
同時に「IBDではない人と比べると、IBD患者の寿命は以前と比較しても短いままである」という研究結果も報告されています。

今日はIBD患者の寿命について見ていきましょう。

IBD患者の寿命に関する研究の詳細は?

研究はカナダのオンタリオ州にあるデータベースを用いて行われました。

調査されたのは、IBD患者の年齢や性別、住んでいる環境(都市部か地方か)と条件が似通っているIBDではない人を対象とした、1996年、2000年、2008年、2011年におけるIBD患者の平均寿命の推移、そして健康度調整平均寿命(HALE)についてです。

この研究手法は後ろ向きコホート研究と呼ばれ、特定の条件を満たした集団を対象にし、診療記録などから過去のできごとに関する調査を行うことを意味します。
また、健康度調整平均寿命(HALE)は健康寿命の指標のひとつで、自立した状態で健康に暮らせる期間を示します。

研究結果の詳細は?

IBDの患者数について

まずは、IBDの患者数の推移についての結果を見ていきましょう。
1996年の時点ではIBD患者は3万2,818人(IBDではない人は16万3,284人)でしたが、2011年の時点では8万3,672人(IBDではない人は41万8,360人)に増加していることが明らかになりました。

IBD患者IBD患者でない人
1996年32,818人163,284人
2011年83,672人418,360人

IBD患者の平均寿命と健康度調整平均寿命(HALE)について

次に、IBD患者の平均寿命についてです。
1996年と2011年でのIBD患者の平均寿命を比較したところ、女性は2.9年(75.5歳から78.4歳)、男性は3.2年(72.2歳から75.5歳)と、全体的に平均寿命が延びていたことがわかりました。
しかしながら、IBD患者とIBDではない人の平均寿命を比較すると、1996年と2011年のいずれの年でもIBD患者のほうが平均寿命は短いという結果が出ています。

平均寿命の差の具体的な数値は、女性で6.6~8.1年、男性で5.0~6.1年でした。

また、健康度調整平均寿命(HALE)についても結果は同様で、女性で9.5~13.5年、男性で2.6~6.7年という差が出ています。

GREEN SPOON

IBDの実態とIBD患者の今後の展望

若年で発症しやすく、腹痛や下痢、血便などによってQOLが低下し、症状が安定した状態(寛解)と再び症状が強く現れる状態(再燃)を繰り返すことから、IBDは難治性疾患とも呼ばれています。
しかしながら、近年における免疫学的研究の進歩は目覚ましく、IBDの病態解明が進むことに伴って治療薬の開発も次々に進められています。

根本的な治療法はまだありませんが、患者に適した薬剤の選択によってQOLは向上しつつあります。
治癒する疾患ではないため、IBDの患者数は今後も増加することが予想されますが、適切な治療を受けることで通常と変わりない生活を送れるようになってきました。
治療を中断した後で、再燃したり、重症化したりする例が見られることから、適切な治療を受け続けることがQOLの向上にもつながっていくことでしょう。

IBDにおける今後の課題

IBDに関する研究や治療薬の開発が進み、平均寿命が延びたという結果が出ているのは大変喜ばしい情報です。

IBD患者の平均寿命がIBD患者でない人よりも短いのは確かだが、IBD患者自体の平均寿命も延びてきている。

一方で、IBDにはまだまだ課題が残されています。IBD患者は腹痛や下痢、血便などの痛みに苦しんでおり、この痛みが日常生活に悪影響を及ぼして、IBDではない人と比べて健康度調整平均寿命(HALE)の短縮を招いているとの指摘があります。
今回の研究論文の筆頭著者であるEllen Kuenzig氏も、IBD患者が痛みを訴える頻度や、痛みがQOLに及ぼす影響を考えると、より良い疼痛管理方法を開発する必要性について述べています。

IBD患者のさらなるQOLの向上を考えると、病態解明や治療薬の開発とともに、Kuenzig氏が述べているようなより良い疼痛管理方法の開発も必要となってくるでしょう。
また、痛みの程度がコントロールできるようになると、IBDではない人と同じような生活を送れる期間が長くなり、この先、QOLの向上だけでなく健康度調整平均寿命(HALE)が延長される可能性が考えられます。
研究が進むことによるIBDの治療の発展、そしてIBD患者の平均寿命の延長を願ってやみません。

CMAJ : Canadian Medical Association journal = journal de l’Association medicale canadienne. 2020 Nov 09;192(45);E1394-E1402. doi: 10.1503/cmaj.190976.