炎症性腸疾患とは
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease, IBD)とは、一般的に”潰瘍性大腸炎”と”クローン病”を指します。
両疾患共に、これといった原因が不明確であり根本的な治療法がいまだ確立していません。よって治療期間が長期にわたるため、お薬とのかかわり方が重要となります。
今回は、炎症性腸疾患という病気を抑えつつ、使用される薬について簡単に紹介したいと思います。
潰瘍性大腸炎における薬物療法は徐々に強く!
潰瘍性大腸炎は、大腸に限局した炎症が特徴的です。
日本全体で22万人の潰瘍性大腸炎の患者さんがいるとされています。
血便や腹痛が主な症状で20-30代の比較的若い年齢層で好発します。
潰瘍性大腸炎に使用するお薬で基本となるものは、5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA)です。
5-ASAの主成分はメサラジンとされており、抗炎症作用を示します。
5-ASAは、ターゲットとする場所に応じてその薬を使い分けます。
- 小腸から大腸にかけてメサラジンが放出されるように設計されたペンタサ
- 大腸に特異的に放出されるように設計されたアサコール
- アサコールとは異なる特性を利用して大腸にメサラジンを届けるリアルダ
この3剤が主に使用されます。
5-ASA製剤の使用にて8割の患者さんに効果があるとされていますが、それでも症状が改善しない患者さんに対してはステロイドやカルシニューリン阻害薬、生物学的製剤など治療強度の高い薬剤を使って症状を抑えます。
潰瘍性大腸炎の治療は、徐々に治療強度を上げていくstep up療法をベースに展開していくため、やたら無意味に薬を切り替えたり上乗せすることがありません。
潰瘍性大腸炎においては、5-ASAこそが治療のメインであり、最重要薬剤といっても過言ではありません。
クローン病における薬物療法は強い薬剤から中心に!
クローン病は口から肛門まで全消化管に渡って症状が出現する疾患です。
全国では7万人のクローン病患者さんがいるとされています。
主な症状は下痢や腹痛と消化管に関連した症状ですが、一方で口内炎や関節炎など腸管以外の症状が出現することも少なくありません。
潰瘍性大腸炎同様に若年層に多くなっています。
クローン病の薬物療法における基本薬剤は、生物学的製剤となります。
生物学的製剤は、ラットやマウスから製造されるお薬で炎症を抑える対象を絞っているため、有効性と安全性に定評があります。
従来から使用されているレミケードは、炎症を惹起するTNF-αと呼ばれる細胞内分子を特異的に抑制するため、これまで生物学的製剤を使用することができなかった時代と比較するとその効果は一目瞭然です。
一方で、動物から製造されるお薬のため我々人に対してアレルギーの懸念があります。
近年では、製造工程においてアレルギー成分となるラットやマウス由来の成分を除去できるようになったため、アレルギーの頻度は格段に低下しました。
生物学的製剤の登場でクローン病の治療成績は格段に改善しました。
しかし潰瘍性大腸炎のキードラッグである5-ASAと比較すると金額にかなり開きがあります。
お薬の業界では、特許が切れたお薬をジェネリック医薬品として提供することが治療費を下げることに貢献できていますが、生物学的製剤にもバイオシミラーといってジェネリック医薬品に準ずるものが登場してきており、医療費の軽減に活躍してくれています。
炎症性腸疾患における薬物療法とは
潰瘍性大腸炎とクローン病は、炎症性腸疾患と呼ばれており似た症状をとる疾患ですが治療に対するアプローチが全く異なります。
それぞれの疾患に合わせて治療を展開しつつ、患者さんの生活スタイルなニーズに合わせて治療を選択することが必要不可欠です。
治療を受ける患者さんや治療を提供する医療者は、疾患やお薬の特徴を抑えつつ、最適な治療を選択できるように力を合わせていくことが重要です。