治療法

腸内細菌と炎症性腸疾患の関係とは?

糞便移植法

腸内細菌の研究が進むにつれ、腸内細菌と炎症性腸疾患の関係が解明されつつあります。

長らく原因不明とされてきた炎症性腸疾患ですが、罹患・発症のカギを腸内細菌が握っているかもしれません。

ここでは腸内細菌と炎症性腸疾患の関係について現在わかっていることについてご紹介したいと思います。

潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の人は腸内細菌の種類が少ない?

潰瘍性大腸炎やクローン病などの50年ほど前から先進諸国で増えてきている腸の病気です。これらは総称して炎症性腸疾患と呼ばれます。日本国内では現在20万人以上の炎症性腸疾患患者がいて治療を受けています。

なぜ炎症性腸疾患になるのか?

残念ながらその原因は未だ不明です。

アメリカやヨーロッパ諸国などの先進諸国の間で増えてきたという点から、清潔すぎる衛生環境、動物性タンパク質・脂肪・低線維食の過剰摂取、抗生物質の過剰使用、ストレス・運動不足等々、先進諸国特有の生活様式が関係しているのではないかという説が有力視されています。

また炎症性腸疾患になりやすい遺伝要因がある人に食事、衛生環境などの環境要因が重なることによる免疫異常として発症するものと考えられています。

未だ罹患・発症の原因は不明である炎症性腸疾患ではありますが、近年、腸内細菌の研究が進むとともに、炎症性腸疾患患者では腸内細菌の種類が少ない傾向にあることがわかってきています。
このことから炎症性腸疾患患者は健常者と比べて、腸管保護作用のある短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸など)を作り出すクロストリジウム属と呼ばれる腸内細菌がとくに減少しており、これにより腸管粘膜が保護されにくくなり、毒性のある二次胆汁酸などを直接浴びることなどによって傷害されやすくなるのではないかという説が出てきています。

潰瘍性大腸炎にはヨーグルトが良い
潰瘍性大腸炎にはヨーグルトが効果あり!難病指定されている疾患の1つでもある潰瘍性大腸炎は、現在日本に18万人いると言われており、さらにその数は年々増えています。完治が難しいと...

健常者の便を移植することで炎症性腸疾患患者の腸内環境は改善するのか?

炎症性腸疾患で腸内細菌の種類が少なくなるのなら、より多種多様な腸内細菌が棲んでいる健常者の便を移植するとよいのではないかという考えから、オーストラリアの医療機関が6名の炎症性腸疾患患者に対してこれを実行したところ、患者の炎症を抑え改善に導いたという研究を2003年に報告しています。

この便移植法は、再発性クロストリジウム感染症には有効であることがすでに立証されています。

再発性クロストリジウム感染症とは抗菌薬の不適切な使用などで腸内細菌のバランスが乱れてしまうことで下痢、発熱、腹痛を起こし、悪化すると大腸に偽膜を作ったり、巨大結腸症を誘発したり、最悪の場合、死に至ることもある病気です。

炎症性腸疾患への糞便移植

では炎症性腸疾患に対しての有効性はどうかというと、先述したような少数例の報告はあるものの、まだ立証されたというレベルには至っておりません。
日本では2014年3月から慶應義塾大学病院内科学講座〈現慶應義塾大学病院IBD(炎症性腸疾患)センター〉が、炎症性腸疾患患者に対する便移植法における有効性の評価を行っており、その結果が注目されています。

便移植
便移植によるIBD治療と今後の展望便移植療法 (FMT: Fecal Microbiota Transplantation) という言葉をテレビなどのメディアやインターネ...

食生活で腸内細菌のバランスを整える

冷蔵庫などの普及により発酵食品を摂取する機会が減ったことは炎症性腸疾患が増えたことに関係があるのではないかという説もあります。

動物性タンパク質や脂質をよく摂取する欧米先進諸国に炎症性腸疾患患者が増えているということからも腸内環境を見直すことが炎症性腸疾患抑制のカギになるかもしれません。
近年、炎症性腸疾患の治療でも腸内環境を改善して、整腸作用や免疫調節作用などをもたらす働きのある乳酸菌や酪酸菌、糖化菌などの微生物(プロバイオティクス)の摂取が補助療法として注目されてきています。



(関連サイト)
・モダンメディア「炎症性腸疾患における糞便微生物移植法の過去・現在・未来」(PDF)
・滋賀医科大学 藤山佳秀教授「炎症性腸疾患病態形成への腸内細菌叢由来二次胆汁酸の関与と腸管上皮細胞UGT発現
・NCBI「Treatment of ulcerative colitis using fecal bacteriotherapy.